Research
いのちを守る科学を、地域とともに
- RIAS研究について
- 岩手県北地域コホート研究について
- いわて東北メディカル・メガバンク(IMM)について
RIAS研究について
平成23年3月に起きた東日本大震災は甚大な被害をもたらし、被災者の心身の健康に大きな影響を及ぼしました。 被災による健康影響は、脳卒中、心疾患などの循環器疾患の発症やそれによる死亡、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)といったメンタルヘルスの問題などさまざまなものがあります。 被災地の住民は、震災により、肉親・友人の喪失、住居の破壊、失業といった様々な変化を経験し、また将来に対する不安を継続して抱えており、 こうしたストレスにより脳卒中や自殺死亡がさらに増加する可能性が高い状態にあります。
脳卒中や心疾患といった循環器疾患の発症については、我が国においては被災地域における大規模な罹患データによる調査は十分に行われておらず、 発災直後の急性期における発症状況やその後の中長期的な影響は十分に明らかになっていません。 こうした背景から、本研究では、被災者に適切な支援を継続的に実施すること、震災の健康影響を縦断的に評価できる体制を構築することを目的として、 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県山田町、大槌町、釜石市、陸前高田市の協力を得て健康調査を実施しました。 また、健康調査と同時に、精神保健に関する訪問調査や小児アンケート、岩手県脳卒中登録データの分析など様々な手段を用いて被災者の健康に関する研究調査を行いました。 また現在は、これまでの調査データと介護情報、死亡状況を合わせた長期分析などを実施しております。
岩手県北地域コホート研究について
岩手県北地域コホート研究は、岩手県北部の宮古・久慈・二戸の3 保健医療圏(12市町村)の住民約26,000名を対象に、 脳卒中、心疾患をエンドポイントとする大規模コホート研究です。ベースライン調査は2002-2004年度に実施され、 生活習慣や健康診断の結果が、その後の循環器疾患発症や要介護状態にどのように影響を及ぼすかを明らかにすることを目的としています。
ベースライン調査の実施にあたり、岩手医科大学とともに岩手県予防医学協会(健診実施機関)が共同研究者として参加し、健診実務に協力しました。 大学、県、市町村、県医師会、予防医学協会、地域の基幹病院、保健所などの立場や場所の垣根を越えた人と組織が協力することにより、 地域全体が学術研究の場となりました。研究開始からこれまでで、hsCRPやBNPと虚血性脳卒中・心不全・心血管イベントとの関連、 飲酒やLDL-C/HDL-C比と心筋梗塞との関連、診断基準別の推算糸球体濾過量(eGFR)と循環器疾患発症リスク、生活習慣と要介護リスクの関連など、 多くの成果を報告してきました。
また本研究は、県および県医師会の行う地域脳卒中発症登録事業および岩手県心疾患発症登録協議会による地域発症登録と連携して対象者の脳卒中、 心筋梗塞および心不全の罹患について追跡を行い、対象地域のそれぞれの罹患率を明らかにしています。 対象の医療圏は高齢化が進行する典型的な農山村・漁村地域で、日常生活動作(ADL)の低下や寝たきりの問題も公衆衛生学的な課題となっているため、 要介護認定状況もエンドポイントに含めました。 研究開始から20年を経過した現在も、研究参加者の住民異動調査、要介護認定調査を継続し、 研究のエンドポイントに関する追跡調査を継続しています。 今後も研究成果の報告とともに、県民の健康づくりのため、地域や関係機関と連携した研究を展開していく所存です。 引き続きのご指導、ご協力をよろしくお願いいたします。
いわて東北メディカル・メガバンク(IMM)について
東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災後の地域医療再建と次世代医療の実現を目指し、 東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が共同で2012年に開始したプロジェクトです。 本計画では、岩手県と宮城県の住民約15万人を対象に、地域住民コホート調査と三世代コホート調査の2つの大規模コホート研究を実施しています。
IMMでは、約3万人の住民から健康情報や生体試料を収集し、長期的な追跡調査を行っています。 これにより、生活習慣や環境要因、遺伝的要因と疾患発症との関連性を明らかにし、個別化医療や予防医学の発展に貢献することを目的としています。 東日本大震災後の被災地における健康影響や社会的要因に関する研究を積極的に行っており、岩手県内の約1万人を対象にした調査では、 新たに社会的孤立となった人や継続的に孤立している人は抑うつ症状のリスクが高いことが示され、 特に、家屋被害や家族の死を経験していない人でも、社会的孤立が抑うつ症状と関連していることが明らかとなりました(Kotozaki et al., 2023)。
さらに、ToMMoとの共同研究では、約6万人を対象に家屋被害の程度と死亡リスクの関連性を分析し、 統計学的に有意な関連は認められませんでした。この結果は、震災後の公衆衛生対策や医療支援が死亡リスクの増加を抑制した可能性を示唆しています(Nakaya et al., 2025)。 収集された生体試料や健康情報は「複合バイオバンク」としてToMMoに保存され、 ゲノム医療の基盤整備に寄与しています。これらのデータは、審査を経て国内外の研究者に提供され、 疾患の原因解明や新たな治療法の開発に活用されています。
さらに、IMMは自治体や医療機関と連携し、健康調査の実施や結果のフィードバックを行い、 住民の健康管理の支援に貢献しています。これらの取り組みを通じて、地域医療の再建と次世代医療の実現に向けた 重要な役割を果たしています。